希望を耕す農園 「めばえファーム」
みはたメイハンランド内にある5,000㎡の農園で、障害者アグリ雇用推進協議会が管理。農業分野における就労支援の場として、週に2回、市内の障害者などが訪れている。
「めばえファーム」は支援が必要な人の居場所
菜の花やひまわりが一面に咲き誇り、皆さんに親しまれている「めばえファーム」。実は、障害者の就農体験実習の舞台となっていることをご存じでしょうか。ここで、就労への第一歩を踏み出すことができれば、協力農家や福祉事業所、一般企業への就労などにステップアップできるよう支援しています。
障害者に限らず、ひきこもりや、若年性認知症といった困りごとを抱える人も、土をいじったり、人としゃべったりするうちに、自信を取り戻していく姿がみられ、10年間ひきこもっていた人が、福祉事業所で働くようになった事例も。「めばえファーム」は、支援が必要な人にとって、新たな一歩を踏み出すための居場所になっています。
全国に先駆けて障害者の農業分野への就労を支援
土や植物に触れることで、心の安定にもつながると言われている農作業。障害の内容に合った作業も可能で、障害者の就労先として注目されています。
市では、平成21年に「障害者アグリ雇用推進協議会」を設立。障害者の農作業を支援する「農業ジョブトレーナー」の養成は全国初の取組となりました。農業や福祉、教育、行政など関係機関が連携して協議会を運営していることも珍しく、横断的な取組につながっています。
めばえファーム 十人十色の耕し方
めばえファームでの作業はさまざま
現在、「めばえファーム」の利用者は10人ほど。種まきから収穫までの農作業全般と、野菜の洗浄や袋詰め、販売も行っています。
農業は、細かい作業から力仕事まで、就業に向けてのさまざまな作業を経験できるのがいいところ。さらに、時期によって栽培する野菜や必要な作業が異なります。
ここでの作業は、週に2回、それぞれ2時間ほど。福祉事業所での雇用時間は4時間ほどなので、医師などから就労時間を制限されている場合の受け皿としての役割も担っていて、利用者への工賃は、障害者アグリ雇用推進協議会から支払われています。
一人ひとりに寄り添う農業ジョブトレーナー
「めばえファーム」で活躍している農業ジョブトレーナーは15人。一人あたり月に1~2回ほど作業を支援しています。ここでは、トレーナーの研修も行っています。
基本的に1対1での支援となりますが、誰が誰を支援するかは、偏らないようにしています。これは、利用者ができるだけいろんな人とのかかわりを持てるようにするため。農業ジョブトレーナーには、作業の日の朝に「この利用者にこういう作業を教えてください」と依頼しています。もちろん、男性が苦手な利用者には女性のジョブトレーナーが対応するなど、利用者に合わせて担当者を決めています。
また、利用者は、複雑な作業が苦手なことも多いため、一日に同じ作業を担当しますが、必要に応じて異なる作業を組み合わせることも。こうした場合も、農業ジョブトレーナーが、一人ひとりに寄り添いながら、丁寧に対応しています。
利用者の声
福西 一美さん
人間関係に悩み、だんだん鬱の症状も出てきて…。
最初は家の外に出ることが辛かったのですが、ジョブトレーナーの皆さんがいつも笑顔で迎えてくれるので、めばえファームに来ることが本当に楽しみになりました。
人付き合いは苦手でしたが、今ではスタッフやジョブトレーナー、他の利用者とのコミュニケーションも楽しみの一つ。常にだれかが笑っている、笑顔が絶えない場所です。
笑って仕事もできるようになったので、一段階上の仕事もしてみたいです。
平島 靖之さん
家にひきこもっていましたが、めばえファームでしっかりと体を動かすようになり、夜もぐっすり眠れるように。今は、前向きな気持ちで家を出られるようになりました。
どんなに簡単な作業でも、ジョブトレーナーさんが褒めてくれるのがうれしくって。無理せず自分のペースで取り組めるので、大変と感じたことはありません。
まだ不安なところも多いので、しばらくはここで作業を続けていきたいです。少しずつでもいいので、ステップアップしていけたらいいな。
川澤 海希(ひろき)さん
働くことに対して不安があったのですが、農業関係の学校に通っていたので、めばえファームでは、学んだことを生かせると思いました。
めばえファームに来るまでは夜眠れなかったり食欲がなかったりしたのですが、ここに来るようになってからは十分睡眠をとれるようになって、もりもりご飯を食べています。仲間とたくさん話ができることもうれしいです。
精神的にも身体的にも安定してきたら福祉事業所で働いて、最終的には農業に関わる会社に勤めたいですね。
農業ジョブトレーナーの声
林 新さん
定年後、社会貢献できればと養成講座に妻と参加。自分の子どもにも障害があるので、これまでの経験も生かしながら、利用者さんに接しています。ただ、一方的に農作業を教えるのではなく、互いに教え合っている感じですね。
木賀 利江子さん
利用者さんと互いにできたことを共有して一緒に喜べるのがとてもうれしい。全てを手伝うのではなく、適切に声をかけられるよう気を配っています。この活動で、自分も成長できるし、私の生きがいにもつながっています。
山村 春子さん
草を抜いていると、近くの玉ねぎも一緒に抜いてしまった私。「こんな風に抜けてしまうからきちんと押さえて抜こうね」と利用者さんに伝えて一緒に笑って。失敗も共有しながら、楽しく作業しています。笑顔があるとほっこりしますよね。
小松 義尚さん
実家は農業をしていて、福祉施設にも勤めていたので、ちょうどいいなと。まだ、トレーナーになったばかりですが、利用者さんの作業の手際の良さには驚かされます。一人ひとりに応じた接し方ができるようになるのが目標です。
農業×福祉のいい関係
担い手不足や高齢化が進む農業分野において、障害者などの雇用を進めていくことは、「農業」と「福祉」の両分野でメリットをもたらします。
めばえファームで実現。より幅広い「農福連携」
障害者が農業で活躍し、自信や生きがいを持って社会に参画するための取組を「農福連携」といいます。農業と福祉の分野が手を取り合うことで、農家にとっては担い手の確保や生産性の向上、障害者にとっては就労機会や収入の確保につながり、両分野にメリットをもたらします。
以前は障害者手帳を持つ人を対象とする取組として、協力農家に障害者と農業ジョブトレーナーが出向き、与えられた作業をしながら就業に向けた訓練を行っていました。
障害者アグリ雇用推進協議会が「めばえファーム」を管理するようになった平成29年以降は、ひきこもりや高齢者などさまざまな課題を抱える人も対象に加え、より幅広い「農福連携」の取組を進めることができるようになっていったのです。
こうした中、「めばえファーム」での就労体験実習には、のべ500人近くが参加。また、農業ジョブトレーナーの登録者数は100人を超えています。
収穫した野菜の販売が就業訓練の貴重な機会に
毎週木曜日、市役所の1階ロビーでは、福祉事務所や協力農家などが野菜や果物、お菓子などを販売しています。ここで、めばえファームの利用者も野菜を売っているのですが、これもまた、就業訓練の貴重な機会となっています。
自分たちが作ったものが消費者に喜ばれ、満足感を得られるところがポイント。農業は自分で作った野菜を自分で収穫して自分で売るため、人の役に立っていることが実感できます。そして、この経験が次へのステップにつながっていきます。
ただし、「めばえファーム」での作業は、あくまでも就労の第一歩を支援する場。農作業の熟度を上げていくためにも、令和5年度からは、協力農家で一歩進んだ作業を行い、しっかりと就労に結び付けていけるように取り組んでいます(就労先は、農業に限ってはいません)。
障害者就労支援には、皆さんの力が必要です
めばえファームでは、やる気のある農業ジョブトレーナーさんがたくさんいますが、その多くは60歳以上。利用者に多様な世代と接してもらえるよう、できれば、現役世代の人も気軽に農業ジョブトレーナーに登録いただければありがたいですね。作業日は平日ですが、月2回程度です。農福連携で作られた野菜などを購入いただくことも支援の1つとなります。
また、障害者の就労支援には、事業者の皆さんの協力が不可欠です。障害者人材センターでは、本人にあった仕事に就けるよう、事業者などと協力しながら障害者の就労を支援しています。障害者人材センターを通じて就労した障害者は、私が担当し始めた10年ほど前は年間2人程度だったのが、令和4年度は30人以上に。皆さんのご協力のおかげで、障害者の雇用は着実に増えてきています。
障害などで働きたくても働けないと悩んでいる皆さん。あなたに合った方法を一緒に考えていきますので、ぜひ一度、障害者人材センターにご相談ください。
「障害者人材センター」では、障害者の皆さんの就労を支援しています
就労を希望する障害者の皆さんは、総合福祉センターふれあい内の「障害者人材センター」へお気軽にご相談ください。
情報提供や就労活動の手伝い、職場との課題の調整など、相談者が安心して働けるように支援。就労前の準備として、めばえファームなどの就労体験実習も紹介しています。障害者雇用を考えている事業者の皆さんからのご相談もお待ちしています。
「農業ジョブトレーナー」になるには?
農業ジョブトレーナーに興味を持ったら、「農業ジョブトレーナー養成研修会」にご参加ください!毎年秋ごろに開催していて、障害者の就労支援などについての講義や農業での実習を行っています。
※問合せ先 名張市 障害福祉室 TEL 0595-63-7591